掛け軸の表装・表具について

掛け軸の表装について

表具・表装とは、書や絵画を和紙や布で裏打ちして補強し、掛け軸や屏風など飾りやすい形にすることです。

単なる補強だけでなく、書画のテーマや色彩に応じた装飾をすることで芸術性を高める意味もあり、華やかな花鳥画には上品かつ豪華な表装がふさわしく、仏画や水墨画などには落ち着いた表装が好まれます。

表装の目的が書画の保存と装飾という両面であることを考えると、書画のテーマと表装の雰囲気が一体化していることが大事なのです。

表装技術の本場は、京都だといわれ、「京表具」とよばれる表装技術は伝統工芸としても認められています。京都には歴史の古いお寺や神社がたくさんありますし、たくさんの国宝・重要文化財が京都に集中しています。

明治以前は御所も京都にありましたから、書画を美しい表装で飾ることは不可欠だったのです。

もちろん、現在は日本中のどこでもすぐれた職人による表装やお値打ちにできる機械表装などがあり、どんな表装にするか考えるのは、骨董好きの楽しみでもあります。

日本の掛け軸は床の間を飾るために発達

床の間を飾る掛け軸
掛け軸の起源は中国ですが、もともとは儀礼用の絵画でした。祭壇に掛けて礼拝するために考えられた表装で、巻けるようになっているのも、持ち運びと保管を考えてのことでしょう。

日本でも伝来してから鎌倉時代あたりまでは、主に仏教の禅宗で用いられた礼拝用の仏画でした。
その掛け軸の位置づけが次第に変わっていったのが、室町時代です。

書院造という、現在の和風住宅につながる建築様式が生まれたこの時代、座敷にあった飾り棚が発達し、床の間となりました。

座敷は客をもてなす部屋であり、床の間は美術品を飾り家主の権威を示す空間でした。
掛け軸は床の間を見栄えよくして、持ち主の権威を高めるために発達していったのです。

さらに時代が進むと、茶の湯と座敷様式、もてなしの作法などが統合され、茶道として確立します。そのなかで座敷の一部分である床の間と、飾る掛け軸も重要視されていきました。
かの有名な千利休が、茶の湯における掛け軸の重要性を説いたほどです。

そのような経緯で発達した掛け軸の表装は、座って見上げたとき、床の間の空間と一体となって美しく鑑賞できるように洗練されています。床の間や座敷の大きさから、もっとも美しく見える寸法が決められているのです。

つまり、掛け軸とは茶の湯の席を構成する空間芸術の要素であり、書画だけでなく表装も全て含めた全体像が作品として評価されるものといえます。

掛け軸の表装部分も価値がある

掛け軸の表装部分
このように掛け軸は、表装に使われる紙や裂(キレ)の色彩や模様も、書画と床の間を活かせるように考慮して選びます。

裂とは染色された布のことで、本体である書画を保護するとともに、掛け軸全体のデザインに大きな影響を与えました。

古い掛け軸なら使われている裂も年代物で、歴史的な価値がある場合も少なくありません。
また掛け軸の年代を特定する重要な情報を含んでいることもあります。

表装を構成する紙や裂にも、無視できない価値があるのです。
ですから掛け軸を表装し直すときは、外した古い裂も必ず貰い受けることをお勧めします。
ただのボロ布ではなく、価値ある裂かもしれないからです。

掛け軸は表装も重要なポイント

掛け軸は表装も重要なポイント

このように、掛け軸の価値は書画だけでなく表装部分も含みます。
もっといえば、保存するときに包む布や桐箱。ときには一緒に残された手紙や鑑定書も掛け軸の一部なのです。

過去に表装し直したことがあるのなら、古い裂も鑑定してもらうことをお勧めします。裂そのものに査定額がつかなくても、掛け軸の年代や真贋を証明する証拠となることもあるのです。
掛け軸の正しい価値を査定してもらうためにも、情報源になりそうなものはできる限り見てもらいましょう。