無名作家の掛け軸に価値はある?

無名作家の掛け軸に価値はある?

遺品整理をしていたら、両親が夫婦でコレクションしていた掛け軸がたくさん出てきたというお客様からのご相談が増えています。思い出の品なので、飾ろうとも思ったけれど、床の間はないし、収納場所の確保も大変。

そもそも掛け軸の知識もないから、保管方法もわからないとお困りのお客様が多くいらっしゃいます。

この機会に、受け継いだ掛け軸をすべて買取してもらおう!と決めたものの、本当に買取してもらえるのか、価値があるのものなのか、気になるところです。有名作家の掛け軸ではない場合、買取が可能なのかどうか、ご紹介していきます。

名前も知らない作家の掛け軸は買取可能?

掛け軸は、日本で最も馴染みのある骨董品のひとつです。飛鳥時代に中国大陸から伝わってきたとされる掛け軸は、鎌倉時代から本格的に流通し始めたと言われています。

明治・大正時代に入ると、掛け軸は盛んに作られるようになります。掛け軸は、有名作家の作品であれば、高額査定が期待できる古美術品です。画業が本職でない作家による掛け軸もたくさん残っているのも特徴的です。

文学者の武者小路実篤(むしゃのこうじさねあつ)が描いた絵を掛け軸に仕立てたもの、中国人作家の魯迅(ろじん)の書を掛け軸にしたものなどが有名で、とても人気のある掛け軸です。

有名陶芸家の尾形乾山(おがたけんざん)も画家ではありませんが、軽妙な絵柄で人気があり、根強いファンも多く、高値で取引されています。尾形乾山の兄は有名画家の尾形光琳(おがたこうりん)。絵画の腕前もプロレベルなのも納得です。

陶芸家の掛け軸で、古美術品として高く評価されているものには、イギリス人陶芸家のバーナード・リーチのスケッチを掛け軸に仕立てたものなどもあります。

画家を本職としていなくても、総合芸術家として高い美的センスのあるデッサンやスケッチ、水墨画を残している作家の掛け軸は、深い趣があり、買い手がつきやすい良品です。

掛け軸に入っているサインが有名画家のものではない、画家のものではないとしても、がっかりすることはありません。画家ではない芸術家の掛け軸が高値で取引されるケースもよくあるのです。

まずは、「価値をしっかり見極められる」プロの鑑定士に鑑定してもらうことが大切です。

文字だけの掛け軸に価値はある?

文字だけの掛軸

掛け軸と聞いて、イメージするのは、墨の濃淡が美しい水墨画や華やかな花鳥風月の作品といった「絵」という方も多いかもしれません。しかし!!古美術品の世界では、文字だけが書かれた掛け軸も非常に人気が高いです。

文字が書かれた掛け軸はお茶会の席に欠かせないアイテムです。茶室の床の間は、神聖な場所として重視されています。この場所に飾る掛け軸は掛物(かけもの)と呼ばれます。お茶会の主催者は選び抜いた逸品を床の間に掛けます。掛物の役割は、

  • お招きしたお客様を楽しませる
  • お茶会のテーマを表す

こと。このお茶会で選ばれる掛け軸のほとんどが「書」の掛け軸です。

お茶会で茶室に「書」の掛け軸を飾るスタイルを確立したのは、わび茶の開祖で僧侶の村田珠光(むらたじゅこう)です。村田珠光は、茶室に好んで墨蹟(ぼくせき)を掛けました。

墨蹟とは墨で描いた書や絵を表す言葉で、日本では臨済宗などの僧侶の書を禅林墨跡(ぜんりんぼくせき)と称し、それを略して墨跡と呼ぶのが一般的になりました。

このような歴史的背景もあり、文字だけの書の掛け軸は、今でも安定の需要があり、査定額も非常に高くなることも珍しくありません。

書の掛け軸は華麗な花鳥風月を描いたものと比べると地味な印象を受けますが、非常に高い価値があることも多いので、見た目の印象で判断しないようにしましょう。

高額査定に繋がるのは綺麗な掛け軸。古い掛け軸の表層は直した方が良い?

遺品整理で見つかった古い掛け軸。とにかく古いもので、ボロボロの状態の掛け軸というのも珍しくありません。

「こんなボロボロの表装で買取してもらえるのか」

と不安になるお客様も多いようです。長い間、箱の中に入れていたものの、蔵や倉庫、物置や押入れに放置したままだった掛け軸。査定に出そうと広げたら、驚くほどボロボロだったというのはよくあること。

ここで注意したいのは、表装だけでも新しくしたら、高価査定に繋がると勘違いしてしまうことです。

査定依頼したい掛け軸がどんなにボロボロの状態でも、査定前に表装を新しくするのはNGです。古い掛け軸を鑑定する際には、

  • 誰の作品なのか
  • いつの時代の作品なのか

を見ていきます。サインがない、モチーフや作風からも分からないなど、掛け軸そのものから判断できないときにポイントとなるのが「表装」です。表装から、掛け軸の制作年代を推測することができるからです。

査定前に表層を新品に修復してしまうと、掛け軸の制作時期の判断ができなくなってしまいます。見た目に古いものでも、そのままの状態で査定に出すことが必須です。適正な鑑定額を出すためにも重要なので、ボロボロでもそのままが◎なのです。

さらに、もう一つ注意点があります。表装をはじめ、掛け軸のような価値ある古美術品を、美術的な知識のない業者に修理、修復依頼するのは危険です。古い掛け軸は、「状態の良いもの」が高額査定に繋がりますが、プロではない表具師”以外”の手によるシミ抜き、色剥げ・色ムラの修正で作品の価値を下げてしまうことも珍しくありません。