ゆったりとした時間を過ごすための大人のアイテム、パイプ喫煙具。
実は美術品や工芸品としての側面もあり、世界的に著名なパイプ作家が何人もいるのをご存知ですか?
世界的に知られるパイプ作家を、正統派から独創性に富んだアーティストまで一挙にご紹介します。
目次
ハンドメイドパイプを作るパイプ作家
パイプ喫煙具は、作家が一点一点手作りするパイプをハンドメイドパイプ、それ以外のパイプをパイプメーカーの作るパイプとして区別します。
特にデンマークの作家によるパイプはオリジナリティ豊かで、アート作品として人気があります。
シクステン・イヴァルソン
シクステン・イヴァルソン(Sixten Ivarsson)は、「ハンドメイドパイプの父」と異名をとるデニッシュ・パイプ(デンマーク・パイプ)の巨匠です。1910年に生まれ、2001年に亡くなりました。
スウェーデンの貧しい家に生まれ、結婚を機にデンマークに移り住んだ後で自分のパイプを修理した経験からパイプメーカーとして活動を始めました。
それまでのパイプは機械で切削して作られていましたが、シクステン・イヴァルソンは自身の手で削り出して新しい形状を生み出すことに成功。
実子のラルス・イヴァルソンや後述するヨーン・ミッケなどを弟子として、パイプ作りの指導も行いました。また、孫娘であるアン・イヴァルソン(ナナ・イヴァルソン)もパイプ作家として活動しています。
ヨーン・ミッケ
ヨーン・ミッケ(John Micke)は、ハンドメイドパイプの父と称されるシクステン・イヴァルソンの弟子であり、デンマークのパイプ工芸家です。1938年に生まれ、2005年に亡くなりました。
青年時代は医師である父に従って薬学を学んでいましたが、心労で休学を余儀なくされ、パイプ作りを趣味として行うようになりました。初めてパイプを作ったのは12歳の時で、20歳頃に師匠であるイヴァルソンの工房から独立しました。
女性のお尻など優美な曲線を模したデザインが多く、自由奔放なフォルム作りで知られています。自らが気に入った最高級品には、シマウマの刻印を3つ施しており、世界でもっとも高額なパイプのひとつと言われています。
アンネ・ユリエ
アンネ・ユリエ(アルネ・ユング Arne Ljung)は、ハンドメイドパイプの父と称されるシクステン・イヴァルソンの弟子の一人です。1913年にスウェーデンで生まれ、1998年に亡くなりました。
パイプ作りを始めたのは50歳と比較的後年になってからで、病気によって失職したことがきっかけとなりました。作り出すパイプは伝統的なクラシックシェイプで、煙の味を楽しむためにステム(煙道)を太めにしているのが特徴です。
体調を見ながらの創作で世に出たパイプの数は少ないですが、スウェーデンと日本で非常に人気となりました。
テディ・ヌードセン
テディ・ヌードセン(Teddy Knudsen)は、デンマーク陸軍で従軍経験のあるパイプ作家です。多くのハンドメイドパイプ作家を輩出した1864年設立のラールセン工房(W. O. LARSEN)やアンネ・ユリエの工房で経験を積みました。自身が気に入った作品には、イーグルマークが刻印されています。
ロメオ・パイプ
ロメオ・パイプ(ROMEO Domenico)は、ミンモという愛称で知られるイタリアのパイプ作家です。テディ・ヌードセンを師匠として、パイプ工芸を学びました。ユニークなシェイプと、美しい木目を活かした繊細さが同居しているのが特徴です。
マストロ・デ・パヤ
マストロ・デ・パヤ(Mastro De Paja)は、1972年にイタリアで創業されたパイプメーカーです。木目の美しいブライヤーのパイプを得意としており、創業者であるアルベルト・モンティーニが自ら原木の選定を行うなどのこだわりが知られています。
小さなボウルで日本向けに製作した「クラシカ」、人工的な凹凸をつけたシェイプが美しい「ラスティカ」、貝殻のような表面加工を特徴とする「シェル」、木目をワインレッドのポリッシュで際立たせた「スムース」、最上級モデルである「エキストラ」などいくつかのラインに従ってパイプが製作されています。
ダンヒル
現在はカルティエやジャガー・ルクルト、クロエなどの名だたるブランドを傘下におさめるリシュモングループに属するダンヒル(Dunhill)は、1880年にイギリスで創業されたブランドです。
ダンヒルといえばダンヒルライターが有名ですが、それよりもっと以前にパイプ製作も行なっています。ダンヒルがパイプ製作に着手した20世紀初頭は、パイプといえば耐久性の低いものが当たり前でした。
ですが、父親から家業を継いだアルフレッド・ダンヒルは良質な木材を使うことでパイプの耐久性をアップさせられることに気づき、長持ちするブライヤーパイプを世に送り出します。
ほかにも、女性のパイプ愛好家のために巻きタバコ用の長いパイプを作るなど、パイプ業界に革新をもたらしました。
サビネリ
サビネリ(SAVINELLI)は、1976年にイタリアで創業されたパイプブランドです。積極的にワークショップを開くなど、愛煙家、パイプ愛好家の間で知られる存在となりました。新旧の特徴をミックスさせた、イタリアらしいデザイン性の高さが特徴です。
柘製作所
柘製作所(つげせいさくじょ)は、1936年に創立されました。パイプ製造、パイプの輸入、ほかに筆記用具やステッキなども取り扱っています。
ダニッシュ・パイプの流れをくむ柔和な表情が特徴の「イケバナ」は、フリーハンドパイプの最高峰として名高い存在です。工程のほとんどが職人による手作業で行われるため、年間に製作されるパイプの本数は約250本。パイプ愛好家なら誰でも憧れる逸品です。
高級ラインだけでなく、パイプのハンドメイドキットや初心者のためのスモーキングセットなど、幅広い商品ラインナップも魅力のひとつです。
Tsutomu pipe
深代勉が代表を務める「深代喫煙具製作所」は、1930年に創業しました。
シクステン・イヴァルソンに師事した経歴をもつ深代勉は、30代で欧米を訪問して得たパイプ構造や素材についての深い造詣をパイプ生産に活かしています。
原木の選定から仕上げまで国内一貫生産を貫いており、完成したパイプは日本最高峰のひとつとされています。
ファルコン
ファルコン(FALCON)は、3代目のジェームズ・ボンドを演じたロジャー・ムーアが愛用していたことで知られるイギリスのパイプブランドです。
ステムとボウルを選んで自分好みにカスタマイズできること、誰でも特別なテクニックを使わなくてもパイプスモーキングを楽しめることを特徴としています。
ハンドメイドパイプは1本1本が希少価値をもつ
ハンドメイドパイプはパイプにふさわしい原木を選び、木目の美しさを計算しながら作り込んでいく、多くの工程を必要とする工芸品です。
伝統的なクラシックシェイプの良さ、現代アートを彷彿とさせる自由で新しいシェイプとどれも甲乙つけがたく、中にはその希少価値から幻の逸品とされるモデルも。
パイプは単なる喫煙具としてだけでなく、その美しさを愛でる時間、パイプが紡いできたストーリーに思いを馳せるアイテムなのかもしれませんね。