どんな場所でも、きらきらとまぶしく輝く宝石。
昔から憧れの的となってきた宝石には、たくさんの種類があります。
赤く光るルビーや神秘的なブルーカラーのサファイア、繊細なカットで光を反射するダイヤモンドなど、どれもこれも人々を魅了するものです。
宝石はさまざまな種類に分けられますが、ここでは原石を「鉱物」としてみたときの「硬度」を基準として、次の3点からいろいろな宝石をご説明しましょう。
- 宝石の硬さをあらわす「モース硬度」
- モース硬度による宝石のランキング
- 「モース硬度以外」の宝石硬度
知れば知るほどに「こんなにたくさんの種類の宝石があったのか!」とおどろくばかり。
硬度によるランキングにしたがって宝石の魅力や歴史について、少し学んでみませんか。自宅にある宝石や誕生石を見る目が、きっと変わってくるでしょう。
1.宝石の硬さをあらわす「モース硬度」

「モース硬度」とは、世界的によく知られている「宝石の硬さ」を数値で表現したものです。
1822年にドイツの鉱物学者であるフリードリッヒ・モースが提唱したもので、今ではどの国でも共通で使用されている基準です。
ここでは以下の2点から、「モース硬度」について簡単にご説明します。
- 宝石の傷つきにくさをあらわす「モース硬度」
- 宝石どうしの「相対的な硬度」をランキングしたもの
- 宝石の傷つきにくさをあらわす「モース硬度」
- 宝石どうしの「相対的な硬度」をランキングしたもの
宝石は「硬度」があるほうが扱いやすく、宝石の硬度を知ることで、お手入れがしやすくなるというメリットもあります。
お手持ちの宝石の硬度を知っておきましょう。
1.宝石の傷つきにくさをあらわす「モース硬度」
「モース硬度」とは、「宝石の傷つきにくさ」を表現したものです。
もっとも硬度のある宝石を「硬度10」と設定し、柔らかいものを「硬度1」としました。数値は「モース硬度7.5」のように0.5単位で表されています。
宝石の硬さを調べる方法はごくごくシンプルで「2つの違う石をこすり合わせて、傷がついた石の硬度が低い」というものです。
たとえば、モース硬度8以上の宝石は、やすりをかけても傷がつきません。反対に、やわらかいモース硬度1の石は人間の爪でひっかいてもキズがつくこともあります。
2.宝石どうしの「相対的な硬度」をランキングしたもの
「モース硬度」では、宝石の硬さを数字で区別していますが、この数字がやや混乱を招く原因ともなっています。
モース硬度「10」は区分上もっとも硬い宝石です、しかし、モース硬度「1」の10倍硬いというわけではありません。硬度「10」と硬度「9」のあいだには140分の1の差しかなく、硬度が1つ下がるたびに硬さも10%ダウンしている意味ではないのです。
またモース硬度は宝石どうしを「こすり合わせて」キズが付くかどうかを調べたもので、上からの「押し込み力」に対する強さをあらわすには「ヌープ硬度」という別の宝石硬度表を使用します。
ほかにも「靭性(じんせい)」という割れにくさで比較することもあり、これもまた、モース硬度とは別の尺度。
このようにモース硬度は絶対的な宝石硬度表とは言えませんが、宝石の耐久性や丈夫さを見るには、重要な硬度表です。
2.モース硬度による宝石のランキング

それでは、「モース硬度」の「硬度1」から順番に、どんな宝石があるのか見てみましょう。
最も柔らかい「モース硬度1」から、もっとも傷つきにくい「モース硬度10」の宝石へ、ランキング形式でご紹介します。
「硬度10」の宝石は想像がつきやすいでしょうが、ほかのランキングには予想外の宝石が入っていて、驚くかもしれません。
1.モース硬度1
モース硬度「1」の石は、「滑石(かっせき)」です。
硬度「1」の石は極端に柔らかく、爪でひっかいても傷がつくことがあります。これは、モース硬度「1」の石より、硬度「2.5」である人間の爪が硬いから起きる現象です。
「滑石」は、パワーストーン市場では「ソープストーン(Soap stone)」とも呼ばれ、非常にやわらかな石けんのような質感を持った天然石。チョークや化粧品、医薬品にも用いられている、ごく身近な鉱物の一つです。
滑石は硬度がピンク色の滑石はしっとりした質感からアクセサリー素材として人気があり、主に女性向けのブレスレットなどに使用されます。あまり硬くない鉱物ですが、見た目のやさしさと扱いやすさから重宝な天然石です。
なお滑石は非常に硬度が低いため、アクセサリーとして使用する場合は硬い部分にぶつけたり、落したりしないように日常生活の中でも注意しましょう。
2.モース硬度2
モース硬度「2」の石は、「石膏(せっこう)」です。
硬度「2」は、爪の硬度2.5よりもまだわずかに柔らかいためにキズが付きやすく、取り扱いには注意が必要です。
石膏は硫酸カルシウムを主成分とする鉱物で、透明な「透石膏(とうせっこう)」、繊維状結晶が上下に平行に集まっている「繊維石膏」、こまかい粒状結晶をもつ白色・半透明の「雪花結晶」等があります。
石膏は、爪でけずるとわずかに傷がつく程度の硬度で、加工が容易なために昔から彫像や壺、そのほかの工芸品の材料となってきました。とくに「雪花石膏」はアラバスターとも呼ばれ、独特の白色が珍重された素材です。
3.モース硬度3
モース硬度「3」の石は、「大理石」「方解石(ほうかいせき)」です。
硬度「3」の石は加工しやすいのが特徴。人間の爪よりは硬いのですが、コインなどの金属を当てれば、簡単にキズができます。
「大理石」は、インテリアでもおなじみの天然石。石灰岩などが変成作用を受けてできたもので、独特の斑紋が非常に美しい石です。
ノミや刃物で削ることができ、さらに原石を磨くとつやが出るため、ふるくから彫刻や建築用の材料に良くつかわれてきました。
「方解石」は、石灰岩や鍾乳石を作っている鉱物。叩くと一定方向に割れやすく、割れた形が菱面体になるのが特徴です。
多彩な色がある鉱物で、無色透明のほか、白やオレンジ、緑、青、ピンクなどの方解石があります。
衝撃に弱い、割れやすいという特性のため、アクセサリーにはなりにくい石ですが、パワーストーンとしては「カルサイト」の名前で人気です。
2.モース硬度4
モース硬度「4」は、「蛍石(ほたるいし)」「マラカイト」です。
硬度「4」となるとかなり硬くなり、ナイフなど鋭利な金属で傷がつく、というレベルになります。日常生活ではそれほど気を付けなくてもよくなりますが、硬いものや鋭いものとぶつかるとキズが出来てしまうでしょう。
「蛍石(ほたるいし・けいせき)」は、多様な色を持つ鉱物です。
無色透明からブルー、グリーン、灰、紫青、ピンクなどがあり、結晶としては立方体もしくは正八面体の状態で産出します。
素材としては割れやすいのが難点で、非常に美しい石ですがアクセサリーに加工されることはほとんどありません。ただし、原石は鉱物標本としては高い人気があります。
「マラカイト」は不透明な緑色の天然石です。石の中に濃淡のしま模様が見えるのが特徴で、これが孔雀のしっぽの模様に似ていることから「孔雀石」とも呼ばれます。
色の美しさから「マラカイト」はペンダントヘッドやリングに使われることも多く、なじみのある石です。
3.モース硬度5
モース硬度「5」は、「黒曜石(こくようせき)」「燐灰石(りんかいせき)」です。
硬度「5」は、ほぼ窓ガラスと同じくらいの硬度。ナイフなど鋭利な金属に当たると、わずかに傷がつくていどの硬さですから、日常生活では石にキズがつく場面が少なくなります。安心して使える天然石です。
「黒曜石」は、ガラス質の火山石。黒色がほとんどですが、黄色や濃緑色が混じることもあり、まれにグラデーションカラーが出る場合もあります。
日本では長野県の霧ケ峰から八ヶ岳一帯で、良質の黒曜石が産出されます。
黒曜石は美しい色からアクセサリーにもよく使われますが、衝撃に弱くて割れやすいのが弱点。割れると断面が非常に鋭利になるため、扱いには注意が必要です。
「燐灰石」は、「アパタイト」とも呼ばれる鉱物。化学肥料の原料や歯磨き剤、人工骨の材料などにも使われます。
4.モース硬度6
モース硬度「6」は、「トルコ石」「ラピスラズリ」です。
硬度「5」は窓ガラスよりやや硬いもので、やすりをかけるとキズがつくというレベル。日常でアクセサリーとして着用する場合、それほどキズの心配をする必要がなくなります。
どちらもリングやネックレスなど素材として人気の鉱物で、古くから宝石として愛用されてきた歴史があります。
とくに「トルコ石」は、人類の歴史上で「もっとも古くから用いられている宝石」だともいわれ、古代エジプトや中国などでは、古来より貴重な材料として使われてきました。
「ラピスラズリ」は、和名を「瑠璃(るり)」という宝石。
日本のみならず世界中で愛用されてきた石です。あのエジプトのツタンカーメンの棺には、装飾品として多数のラピスラズリがはめこまれていました。
「ラピスラズリ」は、ブルーの中に黄色い斑点模様があり非常に美しい石ですが、圧迫や加熱に弱いという弱点を持っています。
また酸やアルカリにも影響を受けやすいので、使用時には多少の注意が必要でしょう。
5.モース硬度7
モース硬度「7」は、「水晶」「トルマリン」「翡翠(ひすい)」です。
硬度「7」の宝石は、やすりでこすってもほんの少し傷がつくていどになります。ふだんのお手入れでもそれほど気をつかうことはなくなりますし、宝石としては非常に扱いやすい種類です。
「水晶」は、純粋に近い「無水ケイ酸」でできた透明感がある鉱物。不純物の混入などから紫や黒、黄色、赤などの色がつくこともあり、原石をそのまま置物としたり、装飾品や印鑑の材料もしたりして、珍重されます。日本では、山梨県や新潟県で産出されるものが有名です。
「トルマリン」は「電気石」ともいい、石の両端にプラスとマイナスの電極がある天然石。加熱すると静電気を帯びるという、ちょっとかわった性質を持つ石で、10月の誕生石です。
「翡翠」は、日本では縄文時代から「勾玉(まがたま)」として使われてきた宝石。日本では新潟県や富山県が有名な産地です。色は多様で、白色、緑色、黄色、褐色、赤色、橙色などがあります。とくに透明度が高くて鮮やかな翡翠は、「ろうかん翡翠」と呼ばれて最高級とされています。
6.モース硬度8
モース硬度「8」は、「トパーズ」「スピネル」です。
硬度「8」の宝石は、やすりでも傷がつきません。ただしトパーズのように衝撃に弱いものもあり、乱暴に扱うのは禁物です。
「トパーズ」は、色の種類が豊富な鉱物。無色透明、ブルー、ピンク、薄茶色、黄褐色などがあり、リング石として人気です。
硬度は比較的高い宝石ですが、結晶の上下軸に対して直角方向に割れやすいという性質があります。硬いものにぶつかったときの角度によっては、軽く当たっただけでもヒビが出来たり、内部亀裂を起こしたりするリスクが高い石です。
「スピネル」は、かつてルビーやサファイアと混乱されていた宝石です。多彩なカラーがあり、赤やブルーの美しいものはルビーやサファイアと見分けることが困難でした。
現在は屈折度でスピネルとルビー・サファイアの区別がつくようになり、「ブルースピネル」や「ピンクスピネル」として、ピアスやリングなどのアクセサリーで使用されています。
赤などはむしろルビーよりも明るく、混じりけのないカラーの美しさから人気が高くなってきました。
7.モース硬度9
モース硬度「9」は、「ルビー」「サファイア」です。
硬度「9」の宝石は、ダイヤモンドをのぞくすべての石に傷をつけることができるほどの硬さです。
だからといって取り扱いに注意が不要なわけでなく、リングやネックレスについた宝石は、着用によって着いたと思われるスリキズや欠けが見られます。丁寧に扱うようにしましょう。
ルビーとサファイアは、どちらも「コランダム」といわれる同じグループに属する宝石です。鉱物としての性質は同じで、ただ色だけが異なります。
発色の違いは、ルビー原石にはクロムが含まれ、ブルーサファイアには鉄とチタニウムが、紫色が美しいバイオレットサファイアにはバナジウムがはいっていることが理由です。
8.モース硬度10
モース硬度「10」は、「ダイヤモンド」です。
ダイヤモンドは、地球上でもっとも硬い鉱物です。
ダイヤモンドを研磨するにはダイヤモンドを使うしかないというほどに、硬度のある宝石。
そのきらめきから、世界中で珍重されています。
美しいだけでなく、耐久性も高いのがダイヤモンドの特性です。薬品や日光に対する耐久性が高く、変化が起きにくいために長く美しい姿を維持できます。
しかしそんなダイヤモンドも、扱いによっては欠けてしまうので注意しましょう。
実はダイヤモンドはキズがつきにくい利点と同時に、「ある一定方向に割れやすい」という特質も持っています。
そのため先鋭な角やエッジのあるデザインだと、ダイヤモンドの角が欠けることもあるのです。欠けを防ぐために通常は金やプラチナの「爪留め」で衝撃を防いでいますが、それでも取り扱いは丁寧にしましょう。
3.「モース硬度以外」の宝石硬度

モース硬度のランキングが分かったところで、今度は「別の硬度基準2種類」で宝石を見てみましょう。
- 工業用宝石で使用される「ヌープ硬度」
- 宝石の割れにくさを示す「靭性」という尺度
モース硬度は宝石の絶対的な硬度をあらわすものでなく、ほかにもさまざまな角度から宝石の硬度評価がされています。こちらも知っておくと、宝石のお手入れ時に役に立つ知識です。
1.工業用宝石で使用される「ヌープ硬度」
「ヌープ硬度」とは、宝石の「押し込みに対する硬度」を測るものです。
具体的な測定方法は、先端がダイヤモンドになっている四角錐を鉱物に押しあて、対象の鉱物にできた「くぼみ」と「押し当てた荷重」から、硬度を絶対的な数値で表記します。
モース硬度よりも装置や手順が必要ですが、宝石の硬度に対する絶対的な評価ができるのが大きなメリット。
モース硬度より「科学的な硬度表記を可能にしたもの」といわれ、工業用の材料や加工技術の分野で用いられる測定方法です。
こうやって測定した宝石の「ヌープ硬度」と「モース硬度」を比較してみましょう。宝石の硬度ランキングそのものは変わりませんが、基準値に違いがあります。
モース硬度「10」のダイヤモンドの場合 | 「ヌープ硬度」でいえば硬度は「6000~8500」 |
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モース硬度「9」のルビーやサファイア | 「ヌープ硬度」で「1600~2000」 |
モース硬度「1」の滑石 | 「ヌープ硬度」で「16~30」 |
ヌープ硬度では数字が大きいほど硬度が高いことになりますので、ダイヤモンドの硬度とルビー・サファイアの硬度には、かなりの差があることがわかります。
さらにダイヤモンドと滑石ではヌープ硬度上では最大「8500」と「16」の差があることになり、いかにダイヤモンドが硬いかが体感的に理解できる数値です。
工業用および加工用に使用される宝石の場合、硬度が非常に重要になってきますので、絶対的な基準に照らし合わせて数値化することが不可欠。そこで「ヌープ硬度」が使用されるのです。
2.宝石の割れにくさを示す「靭性」という尺度
モース硬度が「宝石の傷つきやすさ」をあらわし、ヌープ硬度が「宝石の絶対的硬度を数値化」する物。
さらにほかにも、宝石の耐久性を見る尺度として「靭性(じんせい)」というものがあります。
「靭性」とは、曲げる力に対して抵抗する「粘り」の力です。
物質の硬さを見るには、表面の硬度にくわえて割れにくさをあらわす「靭性」も重要な要素になります。とくに宝石の場合は、鉱物としての耐久性をみるために、靭性の確認が必要なのです。
「靭性」が高ければその宝石は「割れにくい」ということになり、宝石としての耐久性が高い事につながります。
ちなみに靭性については数値では表現しませんが、主な宝石を靭性の高い順に並べ替えてみると、モース硬度とはまた違うランキングが見えてきます。
靭性の高さから言えば、次の順です。
- ルビー、サファイア、翡翠(ひすい)
- ダイヤモンド
- アレキサンドライト
- エメラルド・アクアマリン
- トルマリン・ガーネット
- トパーズ
- オパール
- ターコイズ
意外にも、ダイヤモンドには硬度がありますが、靭性はルビーやサファイア、翡翠のほうが高いことになります。ダイヤモンドは、ルビーなどと比較すると割れやすい鉱物だということです。
また翡翠は、モース硬度で言えば「7」で、ダイヤモンドやルビーはもちろん、トパーズよりも傷がつきやすいという評価なのですが、割れにくさでは高いレベルにあります。粘りがあって、非常に割れにくい宝石です。
このように、宝石を評価するには「モース硬度」以外にもさまざまな基準があります。それぞれについて知れば知るほど、宝石の複雑さや貴重さが分かってくるでしょう。