床の間のないお家で掛け軸を飾る方法

床の間のない家

掛軸は、季節の花鳥風月を描いた日本画や東洋画、中国美術の書画などを床の間に飾る絵画作品です。
季節ごと、もしくは仏事・慶事・書などの掛け軸を客間に飾り、お客様をお迎えするのが日本のおもてなしの基本形。

掛軸と床の間は、いわば日本家屋に欠かせない室内装飾品のセットなのです。
今回は次の5点から、床の間と掛軸の関係や形式などをご説明しましょう。

  • 床の間の起源
  • 基本的な床の間の形式・8種類
  • 床の間にふさわしい掛軸・3種類
  • 茶道と掛け軸
  • 床の間のないお家で掛け軸を飾る方法

最近では床の間のないモダンなお家もありますが、やはり床の間は「ハレの空間」。

品の良い書画作品や華麗な裂(きれ)で表装した掛軸があると場が引き締まります。
まずは基本のポイントだけ押さえておきましょう。

床の間の起源

床の間 掛軸
床の間は室町時代にできた「書院造」が起源と言われます。長い歴史の中で、日本家屋の中心となってきた神聖な場所です。ここでは

  1. 床の間の歴史
  2. 床の間に掛軸を掛ける理由

これらの2点を通して、なぜ床の間が日本人の精神の中心となってきたのかを知りましょう。
床の間は大切な場所だからこそ、貴重な美術品である掛軸を飾っているのです。

床の間の歴史

「床の間」は、日本の客間に設けられた神聖な場所です。床框(とこがまち)で床よりも一段高くして、日本画や書の掛け軸をかけるとともに、骨董品・生け花なども飾ります。

床の間は武家社会が始まった室町時代に、着座する場所で武家社会の身分の上下をあらわしたことが始まりです。
主君が「上段の間」に家臣は「下段の間」に座ったことから、現在では「上段の間」が床の間に代わり、「ハレの間」として大切に扱われています。

ちなみに床の間の向きは、できれば南向きか東向きがいいでしょう。
床の間のある客間は家の中でも一番いい場所に置かれるため、東か南向きが原則です。

もっとも最近では住宅の間取りが自由になり、家の中のいい場所も東側や南側だと限らなくなってきました。
そのため家相を気にしない場合は西向きや北向きの床の間もあり、とくに問題とはみなされませんが、間取りが選べるのなら東向き・南向きがおすすめです。

床の間に掛軸を掛ける理由

では、なぜ床の間に掛け軸をかけるのでしょうか。
日本家屋においては、床の間は上座にある神聖な場所です。そして掛け軸は、もともと鑑賞用ではなく、中国の北宋時代に始まった仏教の礼拝用の絵画でした。当時の掛け軸は拝むためのものですから、神聖な床の間にかけられたのです。

のちに鎌倉時代の後期になると中国美術界から水墨画が日本に伝わり、掛け軸は礼拝用から観賞用の美術品に変わりました。
書画作品としての価値が認められたのち、茶人・千利休(せんのりきゅう)が茶室で使う茶道具のひとつとして掛け軸を飾るようになり、しだいに普及していったのです。

現在ではさまざまな形式の床の間が登場していますが、どのような形式でも床の間は日本人の精神をあらわす大切な場所です。
床の間に掛け軸や古美術品・生け花を飾ることで床の間の神聖さをより高めるというねらいもあるのです。

基本的な床の間の形式・8種類

次に、基本的な「床の間の形式」を覚えておきましょう。
床の間は大きく「真・行・草(しん・ぎょう・そう)」の3つに分かれます。

シンプルに言えば、書院づくりの基本形が「真」、茶室形が「草」、「真」と「草」の中間形が「行」です。
ここでは次の8種類の床の間についてご説明します。

  1. 本床(ほんどこ)
  2. 蹴込床(けこみどこ)
  3. 袋床(ふくろどこ)
  4. 踏込床(ふみこみどこ)
  5. 洞床(ほらどこ)
  6. 釣床(つりどこ)
  7. 織部床(おりべどこ)
  8. 置き床(おきどこ)

「真・行・草」には明確な区別があるわけではありませんが、床の間のジャンルがわかると、ふさわしい掛軸が選びやすくなりますので、参考にしましょう。

本床/真

「本床(ほんどこ)」は、もっとも正式な形式と言われる床の間です。
床框(とこかまち)をつくって客間の床よりを一段高くして、床板あるいは畳や「薄べり」を敷きます。

床柱を立て、床の間の上部には「落とし掛け」を作り、落とし掛けの上を「小壁」にした形に、「床脇(とこわき)」「付書院(つけしょいん)」をそなえると、より格式が高まります。
本式の客間に置かれる、「ハレの空間」である床の間です。

蹴込床(けこみどこ)/行

「蹴込床(けこみどこ)」は、本床とおなじく床を一段高くした床の間です。
本床との違いは、床框(とこかまち)が省略されている点。

床板に使う木材の小口(切断面)を見せて、床板と「畳寄せ(たたみよせ)」の間に「蹴込板」をはめ込んであります。
古い形式の茶室には蹴込板があったと伝えられていますので、古式にならった床の間だと言えるでしょう。

袋床/草

「袋床(ふくろどこ)」は、床より一段高くした床の間に「袖壁」を左右どちらかの片方につけて、袋状の形を作っている床の間です。
袖壁は客間の間取りに応じて左右どちらにつけてもよく、袋部分があるために間口よりも奥が広くなっています。

広くなっている奥には「地袋」という、引き違いの戸を持った小さな棚が作られていたり、飾り棚を設けたりしてあることが多いです。
また袖壁に窓を作り、圧迫感を軽減しているものもよく見られます。

踏込床/草

「踏込床(ふみこみどこ)」は本床や蹴込床とちがい、床框をつくらないのが特徴です。床框がないために、床の間と客間の床は同じ高さになります。
「敷込床(しきこみどこ)」「ふんごみ床」とも言い、地板を張っているものが主流です。

正式な踏込床は畳を敷くべきだという意見もありますが、床の間と客間の床に同じ畳を敷くと空間がひとつながりに見えてしまうため、視覚的なメリハリを持たせる目的で板を張ります。客室の狭さを感じさせない工夫がされている床の間です。

洞床/草

「洞床(ほらどこ)」は、床の間の前面に広い袖壁をつけた床の間です。
袖壁には柱がなく、袖壁と床の間上部の小壁、床の間内部の壁を塗りまわしてあります。

床の間の間口よりも奥が広く、袖壁が大きくて洞穴の入り口のように見えるために、洞という名前が付いています。
洞床は主に茶室に使われ、茶人・千利休のアイディアだと伝わる形式です。

釣床(つりどこ)/草

「釣床(つりどこ)」は床框がなく、床に高さを作らない床の間です。
床には座敷の畳をそのまま敷き、天上から「釣束(つりづか)」を下げて、小壁は「釣り壁」とします。

床柱もなく、天井から落とし掛けが釣り下がっているように見えるために「吊床」とも呼ばれており、床部分がないために普段の生活では客間を広く使用できるとのが大きな利点。

なお、お客さまをお迎えする時などには床に「置き床」という移動できる簡易床をつくり、置き床の上に生け花を飾って場をしつらえることが可能です。

織部床 /草

「織部床(おりべどこ)」は、床柱も床框もなく、客間天井の「廻縁(まわりぶち)」の下に20センチほどの化粧板を取り付けて、掛軸をかけるための釘を打っただけの床の間です。

化粧板は一般的に「雲板(くもいた)」と呼ばれ、安土桃山時代の武将で茶人である「古田織部(ふるたおりべ)」が好んだために、「織部」の名が付きました。

場合によっては柱を床柱に見立てて花くぎを打ち、花器をかけることもありますが、非常にシンプルな形式の床の間です。

置き床(おきどこ)/草

「置き床(おきどこ)」は、取り外しのできる形式の床の間です。

床より一段高い「板床」を移動できるようにしたもので、置き床の上には骨董品や生け花を置きます。
床の間ふうの場所をすぐに作れるのが利点で、単体で使用することもありますし、「釣り床」とセットで使用することも多いです。

床の間に飾りやすい掛軸・3種類

床の間の形式がたくさんあるように、掛軸も種類がたくさんあります。何を買ったらいいのかわからないという時は、「基本の3種類」と呼ばれる掛軸を知っておきましょう。

  1. 季節の掛け軸
  2. 慶事の掛軸
  3. 仏事の掛軸

この3種類の掛軸はたいていの床の間に使えます。
掛軸のコレクションを始めよう、自宅にある掛軸を整理しようという方は、基本の3種類を中心にするのがおすすめです。

季節の掛け軸

「季節の掛軸」は、日本の四季を描いた作品です。
日本では古来より季節の変化を重視しており、とくに掛け軸では花鳥風月を題材にした書画を床の間にかけることで室内に季節の息吹を取り入れてきました。

とくに四季の植物や鳥などを描いた掛け軸はさりげない淡彩や水墨画が好まれ、写実主義と装飾性を両立させている重要な古美術品でもあります。
また、季節の掛軸はどんな形式の床の間にも合わせられるのが特徴。

季節をわずかに先取りした画題の掛け軸をかけ、時期ごとに別の作品に掛けかえることで、移ろいゆく四季のあわれさを感じる。
日本人の精神性に根差した掛け軸の楽しみ方だと言えるでしょう。

慶事の掛軸

「慶事」の掛け軸は、家族の結婚・結納・結婚記念日など、お祝い事に使える掛け軸です。
慶事の掛け軸には人気の画題・モチーフがあり、「松竹梅」や「鶴亀」「高砂(たかさご)」「七福神」などがよく見られるものです。

お祝いごとというハレの日を飾るにふさわしい掛け軸は、イベントがないときでも「日常掛け」として床の間に飾ることができますから、これから掛け軸のコレクションを始めようというひとにはおすすめの作品。

夫婦円満をあらわす「鴛鴦(えんおう)」・「夫婦昇鯉」は、長寿円満や出世をあらわす掛軸として床の間に日常的にかけておけます。
とくに「夫婦昇鯉」は出世の掛け軸でもあるため、昇進祝いの席にもふさわしい画題ですし、夏の季節をあらわす掛軸としても使われます。
ご自宅に一本あるととても便利でしょう。

仏事の掛軸

仏事の掛け軸とは、法事やお彼岸、お盆、弔事で飾る掛け軸です。
仏事の掛け軸の場合、宗派によって掛けるべきお軸の種類が異なることため、購入前にはかならずご自宅の宗派を確認しておきましょう。

たとえば、仏事で使う「名号」の掛け軸であっても、禅宗の場合は「南無釈迦牟尼仏」の掛け軸を、浄土宗・浄土真宗・時宗・天台宗の場合は「六字名号(ろくじみょうごう)・南無阿弥陀仏」を使用します。

また真言宗では「南無大師遍照金剛」のを、日蓮宗では「南無妙法蓮華経」の掛け軸を飾ることとなります。
神道の場合は「天照大神」のお軸を使います。

最近では法事をご自宅でおこなうご家庭が少なくなっていますが、自宅でのしつらえには、仏事の掛け軸はどうしても必要なものです。
季節の掛け軸、慶事の掛け軸とともに、仏事の掛軸もご自宅に一本はお持ちになると、いざという時に困りません。

茶道と掛け軸

千利休が茶道スタイルを確立して以来、茶室と床の間、掛軸は切っても切れない関係になりました。ここでは「茶掛け」と呼ばれる掛軸について、以下の3点から学んでみましょう。

  • 茶掛けの意義
  • 茶室に「墨蹟」の掛軸が選ばれる理由
  • 茶掛けのサイズ

「茶掛け」はお茶室だけでなく、どの部屋にかけてもかまわないものです。
茶道をしない人でも自宅に「茶掛け」ふうの掛軸を飾ることで、りんとした雰囲気を作り上げることができます。気軽に取り入れてみませんか。

茶掛けの意義

「茶掛け」とは、茶道において使われる掛軸のことです。
日本の茶道は、お茶を喫する行為を通じて高い精神性をつちかうものとして、独自に発展してきました。

現在でも茶道にはさまざまな流派が存在し、お茶室で使う道具「茶道具」も流派ごとに違いがありますが、掛軸はどの流派においても欠かすことができないものです。

お茶の世界観を確立したと言われる茶人・千利休が、茶道における心得を書いた「南方録」という本の中には『掛物ほど第一の道具はなし』という一文があり、掛軸には、茶席に招かれた客が鑑賞する「茶道具」の中でも非常に重要なお道具のひとつといえます。

そして「茶掛け」の役割は、単に茶室の室内装飾というだけではありません。

茶道における掛軸には二つの意味があり、ひとつめは茶室内に季節をもたらすこと。
そしてもうひとつが、そのお茶席がもうけられた意味や目的を表現することです。

お茶室内で「亭主」の気持ち・心構えを表現する掛軸は、「墨蹟」「禅語」といった文字だけで構成された書の掛軸が原則ですが、お茶室に入る前の場所「待合(まちあい)」では、季節の掛け軸を飾ることもあります。

茶室に「墨蹟」の掛軸が選ばれる理由

「墨蹟(ぼくせき)」とは、「禅林墨蹟(ぜんりんぼくせき)」の略で、主に仏教の禅僧が書き残した筆跡です。
茶の湯に禅の精神と取り入れた千利休は「墨蹟」を茶室の掛軸の「第一」として、その品の良さと強い精神性の美意識を茶室に取り入れました。

茶室の床の間の掛軸は、「墨蹟」をかけることがほとんどで、ほかには古い手紙である「消息(しょうそこ)」や、能書家による「書」の掛軸などが見られます。

客と亭主が向き合って静かなひと時を過ごす茶室の床の間には、ともに先達の教えをよんで共有する墨蹟や禅語がふさわしいとされているのです。

茶掛けのサイズ

「茶掛け」には、独特のサイズもあります。
掛軸は絵画や書などの「本紙」を和紙や「裂(きれ)」という布で表装して一個の美術品として完成します。

表装の方法には多数の形式があり、用途や「本紙」のテーマ、表装を依頼する持ち主の好みなどで、同じような書画であっても、まったく印象が違うものとなります。

「茶掛け」の場合は、一般的な掛軸よりも幅がほそい表装をするのが特徴です。

通常、絵画や書の左右にある「柱」と呼ばれる裂地(きれじ)の幅は約6センチですが、茶掛けは幅1.5センチ以下に仕立てられます。
一般的な掛軸と比べて、横幅が極端に細いものは茶掛け形式であると考えればいいでしょう。

ちなみに茶室にかける掛軸は、表装してあることが前提です。
墨蹟、古筆切れ、消息などどんな種類の「本紙」であっても、表装されていないものは茶室にふさわしくないとされています。

床の間のないお家で掛け軸を飾る方法

最近では日本の住宅環境が激変しており、自宅に床の間がないお宅が増えてきました。こうなると床の間と掛軸の関係も大きく変わってきます。
そこで以下の素朴な疑問3つにお答えすることで、床の間のないお家で掛軸を飾る方法をご紹介しましょう。

  • 床の間以外に掛軸をかけるのはマナー違反?
  • モダンな和室にあう掛軸の種類は?
  • 洋室にあう掛軸の種類は?

床の間以外を使って掛軸を飾る場合は、掛軸=王道の日本画と考えずに、和テイストの美術品だと考えるといいでしょう。
掛け軸の枠組みを取りはずすことで、新しい可能性が広がります。

床の間以外に掛軸をかけるのはマナー違反?

掛け軸はとくに飾る場所に制約もないので、床の間以外の場所にかけてもマナー違反にはなりません。
貴重な骨董品ではあり、どの場所にかけても価値を発揮する美術品である点が、掛軸の魅力です。

床の間以外の場所に掛軸を飾る場合は、場所を「床の間ふうに見える」ようにアレンジするのがコツ。

マンションリビングの壁に掛ける場合は、掛軸の下に「置き床」ふうの木の台を置き、その上に小さな古道具や生け花を添えると、一気に「床の間の雰囲気」ができあがります。
木の台がなければ、掛け軸の下に小さな畳や薄縁を敷くのもおすすめです。

モダンな和室にあう掛軸の種類

和室であってもモダンな印象のお部屋なら、掛軸の表装で斬新なイメージを作るのも面白いでしょう。

掛軸の表装には伝統的な形式である「三段表装」「丸表装」といったものがありますが、従来のスタイルにこだわらない、もっと自由な「現代表装」を手掛ける職人さんも増えてきました。

作品のサイズや形に応じて横長の表装にしたり、使う布地や和紙をもっと現代風にしてモダンな雰囲気を作ったりしているお軸もあります。
モダンな和室に似合うのは大胆な構図や色彩を使った東洋画や、王道の「仏掛け」など。かけてみると意外と多種類の書画がしっくりとおさまります。

洋室に合う掛け軸の種類

和室が一室もないお宅でも、洋室に掛け軸を飾ることができます。
この場合、掛け軸は作品ジャンルにこだわらず、壁に飾る「タペストリー」として似合うかどうかを基準にして選ぶと失敗しません。

水墨画のなかには現代のイラストレーションの手法に通じる作品がありますし、非常にスタイリッシュな仏画や書もあります。
ちなみに、日本の掛軸は海外からの観光客がおみやげとして購入することも多い美術品です。

洋室に暮らす外国人になったつもりで作品を見ると、洋室にあう掛軸を見つけやすくなります。

このように、掛軸は従来の床の間によく合う骨董品であるのはもちろんですが、客間・床の間がなくてもまったく問題なく飾ることができる古美術品です。

掛け軸の買おうというときは、モダンで洋室でも使える作品、定番中の定番の絵柄などをどんどんチェックしてみましょう。
掛軸=床の間という強固な概念をいったん頭から抜いて、自由に楽しんでみると意外な発見もあります。

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